まとめ

  


アニメは本当に認められたの?

 〜「アニメ」の発音がおかしい!


2016年  6  月12日公開
2016年12月26日改訂
2017年 8 月 7 日再改訂
2019年 6 月 1 日    補記
2019年12 月8日   改訂
 2021年 8 月 1 日 改訂
 2021年11月21日改訂
2021年12月5日 改訂
2023年12月20日 最終改訂

    TAL


序章  〜 アニメブームとアニメファン第1世代


1 アニメブーム
 「アニメブーム」と呼ばれた時代がかつて(約40年前に)あった。1977年の劇場版「宇宙戦艦ヤマト」公開に端を発し、1979年の劇場版「銀河鉄道999」公開あたりをピークとし、1983年頃に終了した。終了時期には諸説あるが、1983年としたのは、この年が「テレビアニメ20周年」で関連イベントが各所で盛大に行われたからだ。個人的には、1982年3月の劇場版「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙」「1000年女王」の公開をもって事実上収束に向かったと考えている(「1000年女王」の主題歌「星空のエンジェルクイーン」は、個人的にはブームの終焉を象徴する曲として印象深い。)。1984年の3大劇場版(「うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー」「風の谷のナウシカ」「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか」)公開はブーム中で、1986年以降のアニメ雑誌休刊続出に象徴される「アニメ冬の時代」到来で完全に終了したという説が有力ではある。
 1963年の「鉄腕アトム」放送開始直後や、1970年前後の「巨人の星」に代表されるスポ根ものが社会現象となった時期や、1997年の2大作品(劇場版「新世紀エヴァンゲリオン」「もののけ姫」)公開時にも、似た熱気は確かにあったろう。しかし、様々な旧作も注目され、「アニメができるまで」といったそもそも的解説がテレビや雑誌で取り上げられ、完全新作のスペシャルアニメが次々にテレビ放送され、アニメ雑誌の創刊やラジオなどのアニメ情報番組の放送が相次ぎ、アニメ作品の声優や歌手も人気を博したあの時期こそが、真の意味で「文化」としてのアニメの「総合的」な「ブーム」だった。
 当時は「粗製濫造」「一過性」「ミーハー中心」などとファンの間でさえ揶揄されたりもしたが、2021年の現在からみれば、ファンも業界も周辺メディアも純粋で真面目で情熱的だったし、作品も1本1本の存在感が大きくて大切にされていた。文化としてのアニメのいわば「青春時代」だった。

2 自己紹介 
 私は、国産連続テレビアニメ第1号「鉄腕アトム」放送開始直前の1962(昭和37)年に生まれ、最終回放送時は4歳なので、本放送を観ていた記憶がギリギリある世代だ。小学6年生のときに「宇宙戦艦ヤマト」に接し(裏番組の「猿の軍団」を観ていたが)、中学3年間はテレビ離れぎみだったが、高校へ入る頃からいろんなアニメの再放送を観るようになって「アニメファン」を自覚し、高校3年間はまさしく「アニメブーム」まっただ中。ブームのピークである1979年の7月22日には、親に懇願してビデオ(ソニーのベータマックスJ7)を購入してもらっている。購入当日に試し録りした最初の映像が、たまたま特集放送されていた国鉄のミステリー列車「銀河鉄道999号」の走行場面だったりする。(テープが高価なため上書き削除したが、現在は2015年CSで放送された「鉄道の時代」で素材映像を録画保存済み。)

3 アニメファン第1世代 
 「鉄腕アトム」放送開始前後に生まれ、中学・高校というまさしく「青春時代」にアニメブームの洗礼を受け、思春期の成長の中で「アニメファン」を自覚した者が、「アニメファン第1世代」である(私の場合、大学卒業・就職の1986年が「アニメ冬の時代」到来時期に重なる!)。それだけに、(少なくとも私は)他のどの世代にも勝る強い「意地と誇り」を持っている。

4 ブーム以降の世相とアニメ・アニメファン 
 劇場版「機動戦士ガンダムⅠ」公開直前の1981年2月に新宿東口で「アニメ新世紀宣言」という同映画宣伝用屋外イベントがあった。「アニメ」が子供向けにとどまらない幅広い可能性を持つ表現であることを、無理解な「大人」たちに伝えようとしたものだ。当時の「若者」約2万人が集まり、新しい文化としての「アニメ」の発展を純粋に信じていた。
 その後、1990年前後は、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件のM君の影響でアニメファンなどに対する不当なバッシングが吹き荒れた。「厳寒期」といっても良かったろう。しかし、岡田斗司夫氏をはじめとするアニメファン側の努力もあり状況は次第に好転していく。
 そして、2005年前後にはインターネットに端を発する「「電車男」ブーム」といういわば「春一番」が吹き荒れた。「アニメファン=オタク=アキバ系」といった短絡的な図式が作られてしまったマイナス面があるとはいうものの、一定の存在価値を認められるまでに名誉挽回した。
 2021年の現在、年間100本を越える新作が制作され、多くの芸能人がバラエティー番組などで、少なくない文化人・学識経験者が観光・地域活性化・国際経済・文化外交・教育・防災などあらゆる分野のドキュメンタリー番組で、またそもそもマスメディア以外の現場(国や自治体の政策会議、地域イベント、異業種企業とのコラボレーションなど)で、「アニメ」に言及する場面が増えた。かつての「アニメブーム」の頃には考えられなかった状況である。「アニメ」が日常的に違和感無く人々の話題に上り、「アニメ」が身近になった。多種多様な芸術表現の一分野として認められたようにも見える。「市民権」を得たようにも見える。かつて「アニメブーム」の頃に「アニメファン第1世代」が夢見た「我が世の春」が実現したかのようにも見える。

5 アニメをめぐる現状への疑問 
 しかし、手放しで喜んでそう叫べるだろうか?本当に「アニメ」そして「アニメファン」は「市民権」を得たと言えるだろうか? 「市民権」にも「1等(1級)市民」「2等(2級)市民」といった格の違いが存在する場合もある。そのような格の違いは無くなるべきだし、また、「2等市民」に甘んじる態度は自虐的で文化の真の発展のためには有害ですらあり得る。
 ここで私が強調したいのは、例えばアニメーターの労働状況などの根源的・社会的に重大な「目に見える」問題ではない。もちろんそれらの問題にも大いに関心を持ってはいるが、声を大にして言いたいのは「目に見えない」問題なのだ。すなわち、人々の意識・認識の問題だ。




本章  〜  日本語の一般的傾向と「アニメ」の発音


1 日本語の一般的傾向(絶対的ルール) 
 日本語は不思議な傾向がある。絶対的ルールと言ってもよいだろう。「流暢な日本語」と言われるのは、変にアクセントをつけない「平板」な発音のことだ。また、文節や複合語単位では、直後に別の単語がつく場合(例:アニメジャパン)はアクセントが消失し、直前に別の単語がつく場合(例:深夜アニメ)は第1アクセント(「ア」にアクセント)になるのが、絶対的ルールだ。
 では、単語を単独で発音する場合はどうか。様々な新語は、概念として登場した当初は明確なアクセントがあったとしても、使用頻度の高い現場を皮切りに、認知され普及していくにつれ、アクセントが不鮮明になり消失するという発音変化が起きることが少なくない。より一般的な同音異義語が他にある場合は、当初からアクセントが無い傾向さえある。明確な場合は起伏発音、消失した場合は平板発音と呼ばれている(👉用語解説へ)

2 「アニメ」以外の具体例 
 具体的にみてみよう。
 当初から平板な傾向があるのは特にIT関係が顕著だろう。「ネット」「Word」「LINE」などだ。一方で、「Excel」は、一般的には起伏だがITに詳しい者ほど平板化する傾向がみられる。
 当初は起伏だが、時代の流れとともにその業界の関係者や一部のマニアなどの間では平板化する傾向のものも多い。「ゲーム」「ドラマ」「コミケ」などだ。
 当初から起伏なまま変わらないものももちろんある。「ロック」「フォーク」「タンゴ」「ブルース」など音楽関係が多いのは偶然かも。「フォーク」は食用器具のそれと同音異義語であるが、平板発音されるのを聞いたためしがない。その一方、「レゲエ」などは平板発音が多いようだ。
 これは邪推かもしれないが、「漫画(マンガ)」は、登場当初(現代的意味としては明治初期)はおそらく起伏だったのではなかろうか。それが時代とともに社会に浸透・認知され、平板化したような気がする。(私の幼少時に祖父が起伏発音していた気がしないでもないためだが、当てにならないことはお許しいただきたい。)
 また、「映画」は、一般的には平板化しているが、年配の人などは今でも起伏だ。(映画評論家の淀川長治氏は最後まで起伏だった。)私自身も、文脈や気分次第で起伏になることがあるが、気にならない。なぜなら、文化としてしっかり認められ市民権が確立していることを誰もが認識しているからだ。そして何よりも、映画ファンであることが揶揄されたり白い目で見られたり特別扱いされたりする時代はとっくに過去のものとなっているからだ。

3 歴史 
 さて、やっと本題である。「アニメ」はどうなのか。実は、登場当初から平板だったのだ!
 まずはその一般化までの歴史をみてみることにする。初期の「鉄腕アトム」の時代は、まだ「まんが映画」「テレビまんが」という表現が一般的で、一部の専門誌や業界関係者(👉用語解説へ)の間でしか使われていなかった(虫プロの映画「千夜一夜物語」などの宣伝造語「アニメラマ(👉用語解説へ)はあったが。)。「巨人の星」「アタックNo.1」などスポ根ものが社会現象となり、一般メディアでも今後の展開が取りざたされたほどの時代でさえ、「アニメ」という単語はまだ使われていなかった(タツノコプロのテレビ「決断」の造語「アニメンタリー(👉用語解説へ)はあったが。)。「アニメ」という単語が世間一般に登場するのは「アニメブーム」のときである。まさしく「アニメブーム」という複合語とともに「アニメ」という単語が一般化したのだ。
 そしてその単語を最初に積極的に使用し始めたのは、当時の「アニメファン」だ。そこに「テレビまんがファン」という概念は存立し得なかった。「宇宙戦艦ヤマト」に象徴されるように、それまでの子供(小学生以下)向け前提の芸能としてではなく、若者(中高生以上)向けの新しい分野の表現として認知してほしい「若者」たちが率先して使用したからだ。業界やマスメディアもそれに追随する形で積極的に使用するようになった。そしてその発音は当然のごとく平板だった。一方、そのような新しい若者文化について行けない多くの「大人」たち(アニメファンではない若者たちも含む。)の発音は、これまた当然のごとく起伏だった。ここで何が起きたか。「大人」はアニメやアニメファンを(子供として)馬鹿にし、「若者」は大人を(年寄りとして)馬鹿にしたのだ。新しい文化が生まれるときは、得てしてこういうものだろう。そしてご多分に漏れず、アニメファンたる「若者」たちは、そのような状況の改善を切望し、新しい文化の開拓・創造への強い意思を込めて平板発音にこだわったのだ。
 前述の1981年の「アニメ新世紀宣言」は、宣言文自体は映画プロデューサーの起草だが、アニメファンたる「若者」たちの熱き想いが結実したものにもなっている。(付言すれば、「アニメ新世紀宣言」の「アニメ」を起伏発音することは、日本語の複合語発音ルールに反するうえ、当時のアニメファンへの侮辱以外の何物でもない。)
 アニメブーム当時の状況を補足しよう。テレビでは、ドキュメンタリーやバラエティーでも数多く取り上げられ、アニメファンや業界関係者も少なからず出演している。ラジオでは、「アニメトピア」「週刊ラジオアニメック」「決定アニメ最前線」「アニメNOW」「アニメシティ」など声優がDJ(パーソナリティー)を務めるアニメ情報番組が多数放送されている。当時の録画・録音内容を改めて確かめてみたが、業界関係者・アニメファン・一般芸能人は、一部の例外はあるものの基本的に平板発音だった。
 その後も、少なくとも1990年代までは、平板発音が浸透・定着していた。若手声優などの一部に起伏平板の混在や揺れも見られはしたが、テレビ・ラジオ局アナウンサーや学識経験者でさえも平板発音する例が少なくなかった(1981年のプロレス中継でアナウンサーが「タイガーマスク2世」関連で平板発音していたし、1989年頃の手塚治虫氏追悼関連では特に顕著)。アニメ関連のバラエティー番組でも、例えば1984年にテレビ東京系で放送された「面白アニメランド」年末特番では、芸能人など出演者全員(漫画家の赤塚不二夫氏を含む)が平板発音だった。
 アニメ作品自体で言えば、1986年にテレビ朝日系で放送された「機動戦士ガンダムZZ」前期OP(👉用語解説へ)「アニメじゃない」は明確に平板発音で唄われていた。1988〜1989年にNHKで放送された「アニメ三銃士」では、次回予告で声優が作品名を(複合語なので当然だが)平板発音していた(同時期のバラエティー「土曜倶楽部」の声優体験特集でも同様)。また、1996〜1998年にテレビ東京系で放送された「こどものおもちゃ」では、主人公が芸能人設定ということもあり、当時としては珍しく本編中に「アニメ」という単語が数回登場するが、声優(いずれも本職ではない)の発音はいずれもほぼ全回平板だった。さらに、2004・2007年に地上波(独立UHF局)やCSで放送された「げんしけん」でも、アニメファン(オタク)設定のキャラクターの発音は全員平板だった。
 ただし、念のため付言すれば、隣接分野(漫画業界、ゲーム業界、特撮・SF業界など)の関係者においては、起伏発音が少なくない。あくまでアニメはアニメという独立した表現分野である証左でもあり、やむを得ないと考える。例えば、手塚治虫氏は最後までほぼ起伏発音だったが、それは氏がアニメ業界人ではなくあくまで漫画家(すなわち異業種人)であったことの証左と考えるべきだろう。(1985年のNHK「ニュースセンター9時」の「第1回広島国際アニメーションフェスティバル」開催報道内では珍しく平板発音!)

4 現状①(同調圧力と逆転現象) 
 ところが近年、その傾向に異変がみられる。
 私が気づいたきっかけは、2010年からNHKで放送されたアニメ・マンガ・ゲーム総合情報番組「MAG・ネット」だ。ナレーションの声優が起伏発音ばかりのため、てっきり「NHKが言わせているんだ。しょうがないなあ。」と思っていた。でも実は、民放のバラエティー番組やCF(👉用語解説へ)などでも多くの芸能人(声優を含む)が起伏発音をしていることがわかった。2014年冬のコミケ87の会場で某ラジオ局現役アナウンサーのY氏に直接確認したところ、少なくとも某ラジオ局では「アニメ」の発音についての指導は特にないとのことだった。ここで私は、恐るべき実態に気づかされたのだ。すなわち、放送局側が指導しているのではなく、出演者個人が任意で起伏発音していることに。
 また、番組の中で平板発音する出演者がごく少数の場合、とてもしゃべりにくそうにしたり次の瞬間には起伏発音になびいてしまう光景を観ることも少なくなく、日本社会における「同調圧力」の恐ろしさをひしひしと感じる。
 そうなのだ、「同調圧力」。日本人は戦前から何も変わっていないのだ。本来、前述の日本語の絶対的ルールに従えば、起伏発音の「非アニメファン」が、平板発音の「アニメファン」「業界関係者」に合わせて平板化していくのが筋だ。なのに、平板から起伏への流れだ。すなわち、ここに絶対的ルールに反する逆転現象が起きているのだ。こんな事例は他にない。少なくとも私は知らない。「時代の流れ」「言葉は生き物」と言うなかれ。「逆行(逆転)」は「退化」と同じ。あってはならない。

5 現状②(「こちら側」) 
 堪え難いのは、私のようなアニメファン第1世代にとって「こちら側」と思われる層の人、すなわち業界関係者(特に声優)や他のアニメファン起伏発音されることだ。特に、アニメブームや1990年代の第3次声優ブーム(👉用語解説へ)の頃にちゃんと平板発音していた人が最近になって起伏発音するのに出くわすと、憤りさえ覚える。圧倒的多数の起伏発音の若手声優やタレントの中に1人だけ平板発音のベテラン声優が入れば、「同調圧力」の凄まじさは想像に難くない。また、2005年前後の「「電車男」ブーム」以降、「アニメファン」が「オタク」として本編中に登場するアニメ作品が珍しくなくなり、番組紹介や関連商品などのCFも増えた。必然的に本編中やCF中で「アニメ」という単語が頻発するようになった。しかし、BSやCSのアニメ専門チャンネルさえも含め、声優などの大半が起伏発音しているのは、聞くに堪えない。
 一方で、きちんと平板発音する一般芸能人や異業種クリエイターに出くわすと、「この人は本物だ」「この人は信頼できる」「この人の出る(創る)作品なら観て(読んで)みよう」と好感度がグーンとアップしたりする。
 アニメブーム当時の無理解な「大人」の子供にあたる世代(現在の35〜45歳辺り)なら親からの影響などでやむを得ないとしても、アニメブームを(ひょっとするとその親も)全く知らないであろう15〜25歳辺りの若者に起伏発音される(特に一方で「ゲーム」「ドラマ」「ネット」などを平板発音される)と、「俺たちアニメファン第1世代の苦労は何だったんだ」「ちゃんと歴史を知ってくれ」と、大げさに言えば私の人生を否定されたに等しいという落胆を禁じ得ない。 
 これらははっきり言って、アニメブーム以降の苦闘の歴史を乗り越えやっとここまで地位を向上させるに至った現役の「アニメファン第1世代」に対する裏切り行為だ。私の「アニメファン第1世代」としての「意地と誇り」は、このまま看過することを許してはくれない。

6 現状③(世界共通語) 
 なお、「アニメ」は言うまでもなく英語「アニメーション」の略であるが、現在では両者は別の意味合いを持つものとして位置づけられている。すなわち、「アニメ」は日本製の商業アニメーションに限定された意味を持つ日本語として、世界共通語となっている。そして世界シェアが6割とも7割とも言われる浸透度から、辞書(それなりに収録語数が多いものに限られるが)に堂々と掲載されている言語も少なくない。
 具体名は避けるが、日本国内で発行されている複数の辞書を調べた結果を簡潔に述べる。昔から人気のあるフランス・スペイン・イタリアなどラテン系言語圏では「メ(正確にはe)」にアクセント符号が打たれており平板発音に近い。一方、割と最近人気が出てきたアメリカなど英語圏では「ア(正確にはA)」にアクセント符号が打たれる起伏発音の傾向がみられた。近年の日本人がきちんと平板発音していないからに他ならない。由々しき事態だ。なお、「漫画」も、掲載されている言語(英語、ドイツ語、スペイン語)では起伏(第1アクセント)ばかりだ。
 実際には、外国人(在日、訪日とも)は、英語でも日本語でも平板発音が多いようだ。日本人に変に同調せず、前述のような歴史的背景を理解し平板発音を続けていただけることを願う。


7 現状④(番組制作者の姿勢) 
 前述のような私の危機感が高まった2014〜2015年に、実に対照的な2本のテレビ番組が存在した。
 2014年に放送されたドラマ「アオイホノオ」。最も腹立たしかった事例だ。1980年代初頭のアニメブームまっただ中の関西の大学を舞台にした、業界人を目指す若者たちの群像劇。それなのに起伏発音のオンパレード。これには怒り心頭に達した。どちらかというと漫画業界や特撮・SF業界志向のため平板発音ではない人も中には実際にいたかもしれないが、時代考証がずさんすぎる。岡田斗司夫氏が演じた手塚治虫氏については、前述のように結果的に正しかったわけだが。少なくとも当時の庵野秀明氏や岡田斗司夫氏は平板発音していたはずと記憶している。(当時の岡田斗司夫氏には1983年のイベントで直接会っている。)
 何とその「アオイホノオ」終了直後から始まったアニメ
「SHIROBAKO」。最も嬉しかった事例だ。アニメ制作会社を舞台にした、業界人などの群像劇。だから当然とはいえ、実に徹底した平板発音。これには大変癒され救われた。しかも、一部の素人(主人公の姉など)に限り起伏発音を許すなど、明らかに意識した演出がされていて、プロデューサーをはじめとする制作側の強いこだわり(最近の若手声優への教育・啓蒙的動機さえも!)を感じ、アニメファン第1世代としては狂喜乱舞せずにはいられず、大いに溜飲を下げた。絶妙のタイミングでの放送に、今でも心から感謝している。

8 考察 
 なぜ同調圧力」「逆転現象」が起き、起伏発音者が増えるのか。仕事などでアニメに関わる「非アニメファン」が増えたことが背景にある。ビデオグラム(👉用語解説へ)に依存した製作委員会方式の普及や聖地巡礼(👉用語解説へ)の顕在化に伴い、マスメディア以外の現場(国や自治体の政策会議、地域イベントなども含む)で異業種コラボレーションが増えた。その現場において平板発音者がごく少数の場合に起きるのだ。
 これは、「アニメファン」が依然として世間における異端者であり、正当な市民権を認知されていない証拠なのだ。いまだに特別扱いされているのだ。たとえ馬鹿にするわけではないとしても、「キワモノ」「変人」扱いなのだ。アニメ業界自体さえも、「弱小な」「狭あいな」「異端な」「特殊な」産業と見なされているとさえ言えるのだ。
 仮に「ゲーム」「ドラマ」を平板発音する人が「アニメ」を起伏発音したとすると、その人にとってアニメはその程度の、なじみの薄いもの(これ自体は仕方のないことだが)であるだけでなく、ゲームやドラマよりも格下のものとして取り扱っていることになるのだ。決して対等な「文化」「趣味」として(その人からは)認められていないことになるのだ。
 発音変化が起伏から平板への向きであることは、日本語の絶対的ルールである。発音変化の原因の一つとして、平板の方が何となく「カッコいい」「粋だ」「通だ」という感覚があるのだろう。馬鹿にされたくない、時代に乗り遅れたくない、という意識から積極的に平板発音に合わせようとするのではないか。IT関連は特に顕著で、例えば「ネット」を起伏発音する人はほとんどいない(因みに私は違和感無く起伏発音できるが。)。
 アニメが本当に現代日本を代表する最先端の文化で誇りに思われているならば、アニメを観ることが、アニメを話題にすることが、趣味がアニメ鑑賞だと公言することが、カッコいい(少なくとも恥ずかしいことではなくごく普通の趣味的話題の一つ)とされているならば、平板発音者が減ることはないはずだ。アニメ業界関係者と異業種企業や自治体関係者や住民とが同席する場や、テレビ座談会などでアニメ業界関係者とタレントや局アナウンサーとが同席する場で、それまで起伏発音だった人が若干の抵抗も残しつつ平板発音へ変わっていく流れ。それはプロの仕業を素人が敬意を払って見習う、というおよそあらゆる文化の伝承・普及・浸透のありようではないのか。その逆はあり得ないのだ。プロが素人に合わせていたら、その文化の本質は永久に理解されず、その文化が真に発展することはないからだ。
 間違っても、ちゃんと平板発音していた人が、周囲がみんな起伏発音しているからといって「同調圧力」に負けて起伏に変わるなんてことがあってはならない。あるとすれば、アニメに詳しいことはいまだに「カッコ悪い」「特殊な」ことで、「オタク」「マニア」などと特別視されたくない、と自ら卑下する心理が働いているとしか思えない。まるで「2等市民」に甘んじる態度だ。その意識(心理)が大問題で、発音はその表象だ。アニメが、これまでの苦難の歴史を忘れられ、いつまでたっても陽のあたる「現代大衆文化」になれないどころか、このままでは「キワモノ(2等市民)」扱いを未来永劫定着させてしまうことになりかねない。認識の「進化」への不断の努力が必要とさえ言える。
 誤解しないでいただきたいが、私は決して誰もが平板発音しなければダメだ、と言っているのではない。どんなものでも好き嫌い・関心の度合いには個人差がある。アニメに全く興味のない人に平板発音を強要する気は毛頭無い。しかし、アニメに少しでも興味がある、また少しでも直接関わりのある人には、少なくとも平板本来の「正統な」「粋な」「玄人」「通」の発音であると率直に認めていただきたい。そして、できればそれを見習い平板発音してみていただきたいと思う。
 発音変化の向きが正常になって初めて、アニメは真に「市民権」を得た「文化」として認められ定着したと言えるのだ。

9 アクセント辞典 
 因みに、アクセントに関して権威ある(?)『NHK日本語発音アクセント新辞典』(NHK出版)と 『新明解日本語アクセント辞典』(三省堂)の記載はどうか。いずれも、「アニメ」「映画」は起伏平板の順に併記、「ゲーム」「ドラマ」は起伏のみ。なお、「ネット」は平板のみ。
 3音の外来語は基本的に第1アクセントになるため起伏が先なのは仕方ない。しかし、NHK版は「推奨できる発音がある場合は併記」という方針に適合した結果平板を明記、三省堂版は「最近の傾向の場合のみ「(新は)」で併記」という方針の下で「映画」には有る「(新は)」の記載が「アニメ」には無し。
 これらのことから、「アニメ」の平板発音は、積極的に(しかも「映画」よりも昔からきちんと)認められているということになる。アナウンサーを始めとする社会的影響力のある方々には特によく認識していただきたい点だ。
 特に、「アニメ」が「ゲーム」「ドラマ」と違い平板発音が明記されていること自体に大きな意味がある。平板発音で拡がっていったという「ゲーム」「ドラマ」に無い歴史的事実の証明であり、私が「アニメ」の発音に特にこだわる理由はここにある。
 なお、アクセントに関するインターネット上の某サイトは、極めて恣意的なアンケートに基づいたもので、全く信頼性に欠ける。結果を操作している疑いが濃厚(「まとめ(要約版)」コメント欄参照)で、かつ、そもそも特定の世代に偏っている可能性が高いからだ。あくまで、紙の辞典(きちんと考証されている)に依拠すべきだ。



結章 〜 未来へ向けての心からのお願い



【①すべての方々へ】

 もともと平板発音から始まった(平板発音が正統的)という歴史的事実きちんと知り、よく認識し、尊重してください。その上で、アニメ文化の発展のためにどうあるべきか、よく考えてみてください。(例えば、「2等市民」で良いなどと割り切るのは、文化の真の発展を阻害することになりませんか)
 なお、外来語のアクセントは方言とは基本的に無関係です。 
 また、アクセント辞典でも、「アニメ」は、「ゲーム」「ドラマ」と違って起伏平板の完全併記であり、使用場面や聞き手による「使い分け」が認められています
 

【②もともと平板発音されている方々へ】

 正統的な発音をしているのだから、まずは自信と誇りを持ってください起伏発音者が多い場にいたとしても同調圧力に負けたりせず、卑下したり、媚を売ったり、すり寄ったりしないでください起伏発音者がアニメ業界関係者など「玄人」であっても勘違いしたりせず、どうか今のままでいてください。


【③もともと起伏発音・平板発音が混在している方々へ】

 平板発音の方が正統的な発音なので、今後はできるだけ平板発音を増やし、平板基調になっていってください。
 場によって使い分けるのならば、アニメに関する番組・イベントなどの場では、積極的に平板発音をしてみてください。
 長い文などの場合に息継ぎの関係でやむを得ず起伏発音してしまうのは構いませんが、意識して起伏発音に変えるのだけは避けてください。


【④もともと起伏発音されている方々へ】

 「玄人」(アニメ業界人、その他のアニメ業界関係者、濃いアニメファン)の方々は、常に正統的な発音である平板発音こそがふさわしい立場ですので、まずは徐々にでも平板基調(上記③の状態)に変えてください。そして、昔の大半の先輩方のように自信と誇りを持って平板発音のみにできるだけ早くなることがアニメ文化の真の発展に貢献できるのだ、と考えていただければ幸いです。
 「素人」のうち、アニメに関する番組・イベントなどに携わる方々(特に司会者)は、アニメ文化を本気で尊重しようと考えるならば、積極的に平板基調に変えていってください。
 「素人」のうち、ごく薄いアニメファンや、普段はアニメに特に関心や関わりはないが何らかの機会に「玄人」と関わってしまった方々は、「玄人」の平板発音に馴染んでいき、時には試しに平板発音してみていただければ、アニメ文化への親近感が増すと思われるのでオススメです。




補足:用語解説


本章1 起伏・平板
起伏:単語の発音で、アクセントがはっきりあるもの
       (3音の単語は、第1アクセントが多い)
    (例)「アニメ」の「ア」が高く強く聞こえる
                 (第1アクセント)
      「アニメ」の「ニ」が高く強く聞こえる
                 (第2アクセント)
平板:単語の発音で、アクセントがはっきりしないもの
    (例)「アニメ」の「メ」がはっきり聞こえる


本章3 業界関係者
 狭義(「業界人」)には、アニメの企画・制作・販売のいずれかが本業の企業(フリーを含む)のみ。広義には、アニメ声優・アニメ歌手・アニメ音楽制作者のほか、アニメ雑誌編集者・アニメ専門チャンネル制作者・アニメイベント主催者なども含む。なお、製作委員会の構成員であっても本業がアニメではない場合は、基本的には「異業種」だが、担当者個人については最広義での「関係者」と言えなくもない。


本章3 アニメラマ
「アニメーション+ドラマ」の略。大人のための前衛的なアニメであることを強調する、映画宣伝用の造語


本章3 アニメンタリー
「アニメーション+ドキュメンタリー」の略。史実を基にしたドキュメントタッチのアニメを意味する造語


本章3  OP
「オープニング(・テーマ)」の略。テレビ番組や映画の冒頭付近に流される、原則として楽曲(多くは歌)付きの映像部分又は楽曲自体


本章4  CF 
「コマーシャル・フィルム」または「コマーシャル・フラッシュ」の略。「CM」とほぼ同義だが、作品・媒体としての側面を強調する場合に使用する表現


本章5  第3次声優ブーム
 1992〜1999年頃にあった女性声優中心のブーム。代表格は林原めぐみ氏。声優専門誌や声優専門テレビ番組の誕生、レコード会社専属契約化や日本武道館単独コンサート実現なども重要


本章8  ビデオグラム 
 テープ(VHSなど)・ディスク(LD、DVD、ブルーレイなど)を問わず、映像パッケージソフトの総称


本章8  聖地巡礼 
 作品の舞台やモデルとなった地域・地点を訪問し、作品世界を疑似体験したり作品ゆかりの事物に直接触れたりする行為の総称。特にアニメ作品について使用されるのが通例



(注) 転載・印刷はご自由にどうぞ。
    ご意見・ご感想も大歓迎!(賛同・補足・疑問・苦言・批判など内容問わず!)
       

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