2019年9月28日土曜日

なつぞら

 NHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)の通算100作目「なつぞら」。半年間の放送が本日終わりました。

 業界関係者などからは結構不満や批判の声(「話をはしょりすぎ」「所詮は単なる背景としてのアニメ界で、家族愛的なものが中心」「より高度な段階での「成功」を描こうとしていない」など)もあった当作ですが、個人的には不満はあるものの及第点はつけられるかなという感じです。

 「黎明期を描く」とのことだったので、半年に及ぶドラマでどの時期まで描くのか、業界ネタはそんなに豊富なのか、疑問はありました。作品名などは徹底して変名を使用したり、史実と異なる順序・時期・人物関係などになっていたり、かなり時代をはしょりすぎている感はありました。案の定、酪農や家族関係の話がかなり多かった気はしますし、カレーライスの元祖「中村屋」がらみの話も絡めるなど、同時代の多様なネタが盛り込まれていました。万人ウケする形にはなっていたでしょう。正直言って、時期ごとの各作品作りを同業他社(者)との絡みも含めてもう少し突っ込んで欲しかった気はします。1975年頃までという長期間を取り上げたのは全く予想外でした。それでいて東映の「西遊記」にも関わっている「手塚治虫」についてはたった一度「鉄腕アトム」の名前とともに触れられただけだったのが意外でしたが、東映系の主人公たちの話に徹していたのは筋が通っていてむしろ良かったとは思います。

 実在の業界人などが(モデルとなる各人物と比べてかなり変更があるとはいえ)これだけ大勢描かれた実写作品は史上初ではないでしょうか。アニメでは「SHIROBAKO」など数例ありますが。何よりも、「工房(アトリエ)」としてのアニメ制作会社が描かれていました。大勢のスタッフが一つ所に机を並べ、時には会議で意見を戦わせ、全員で協力して一つの「もの」を作り上げていく様は、感動すら覚えました。「ものづくり」とは本来こうあるべきだ、と実感しました。京アニ事件との相乗効果で改めてアニメ業界(人)が注目を浴びましたが、京アニやかつての東映に代表されるような制作体制こそが、良い作品作りには望ましいのだ、と再認識させられました。尤も、終盤では外注に伴うトラブルなども描かれましたが。
 OP映像のアニメが、実は最終盤の「大草原の少女ソラ」と関連するもので、当作のゴール地点が当初から示されていた、という構成には終盤まで気づきませんでした。なぜ当作の設定を北海道の酪農一家にしたかも腑に落ちました。(酪農を描きたいならそれに徹したドラマにした方が面白いのに、なぜアニメーションへ?、というのが当初からの疑問でしたから。) 詳しく描写されてきた酪農一家とうまく結びつけた「大草原の少女ソラ」の登場という自然さも相まって、人々に感動を与えられるというアニメーションの一つの到達点を示し、それなりに「成功」が描かれていたと思います。(私も作中の柴田泰樹氏(役者は草刈正雄さん)と同様の感動を覚えました。)
 番組自体としても、幅広い世代に「ものづくり」としてのアニメーションやそれに携わる人々への理解を広めることができたのではと思われます。100作目という絶妙のタイミングでの高い注目や、京アニ事件に対して現実の「工房」「業界人」(特に、理想的な工房としての京アニの存在や、アニメーションの各制作工程での各人の役割・存在感)への理解と共感を伴う注目が得られたことで、今年はアニメーション業界・アニメーション文化にとって意義深い年となったのは確かです。(京アニ事件の報道の中でも当作と絡めた記事が複数見られましたし、その意味でも絶妙のタイミングでした。)
 個人的には、業界関係者としての声優の顔出し出演(山寺宏一さん、田中真弓さん、沢城みゆきさん、高木渉さん)も楽しませてもらえました。


 さて、当ブログとしての言及もさせていただきます。
 「アニメ」という単語の登場機会は、予想どおりナレーションのみで、計3回。7月23日の第98話、9月7日の第138話での次週予告、9月28日の第156話(最終回)。大変残念ながら、いずれも起伏発音でした。ナレーション担当の内村光良さんは、昔から平板発音されており、(過去投稿で取り上げた通り)昨年の紅白歌合戦でも1回、NHK総合で8月30日放送の「あさイチ」の「なつぞら」特集でも2回発音機会があり、すべてとても自然な平板発音をされていました。(ちなみに、当作関連の特集番組は大半を視聴しましたが、広瀬すずさんら本編出演者の誰一人「アニメ」の発音機会はありませんでした。当作とは全く無関係の番組なども含めれば、過去投稿にもあるように松嶋菜々子さん起伏発音されたことがありますが。)
 これはどういうことなのでしょうか。私は、NHKに対して昨年7月・今年7月・今年9月の合計3回、「平板発音から始まった歴史があり、ナレーションなど当作中で平板発音されれば大変有意義」という趣旨のメール投書をしてきました。それなのにこの結果です。まさか現場で発音指導があったとは思えないのですが、内村さんご本人が忖度か何かで、普段のご自身とは違う発音をあえてされたような気がします。無言の「同調圧力」なのか、「起伏の方が正式な発音」といったご本人の勘違い(アクセント辞典で認められているように、決して「正式な」発音というわけではありません。)なのか、とにかく残念の極みです。このようなケースが(テレビやラジオなど放送現場で)今後も発生することのないよう願うものです。

 (※諸般の事情により、動画投稿はありません。)

0 件のコメント:

コメントを投稿