ナレーションは、直接の出演ではなく陰から関わる立場の喋りですが、番組出演者との間で発音について相互に影響を与え合う関係でもあります。基本的には台本があり、別室で収録し、ディレクターと1対1でやり取りすることが多いようです。ナレーション収録のタイミングは、クイズ番組など番組内容と連携している場合(番組収録と同時並行、番組収録時点では「生」)はまれで、ドキュメンタリー番組の多くは番組収録後、バラエティー番組の多くは番組収録前です。前であれば番組出演者がナレーターの発音から、後であればナレーターが番組出演者の発音から、影響を受ける恐れがあります。しかし、一番影響し合うのは、やはりナレーション収録現場でのディレクターなどスタッフとの間でしょう。
10月7日にテレビ朝日系で放送の「1万人が選ぶ! ついに決定! 令和VS平成VS昭和アニソンランキング」。最近非常に放送内容にショックを受けた番組です。総合司会はお笑い芸人サンドイッチマンのお2人。一般芸能人からは上川隆也さん、宮田俊哉さん、岩井勇気さん、(途中から)森口博子さん。声優さんからは神谷明さん、宮村優子さん、井澤詩織さん、富田美憂さん、伊藤健人さん、伊駒ゆりえさん、戸谷菊之介さん。生歌披露のゲスト歌手として(森口博子さんのほか)高橋洋樹さん、米良美一さん、松本梨香さん、きただにひろしさん、ゴダイゴ(タケカワユキヒデさんらフルメンバー)がスタジオ出演。
錚々たるメンバーでしたが、「アニメ」の発音機会があったのは、わずか3名。岩井勇気さんが(今回は)起伏1回のみ、戸谷菊之介さんが起伏2回のみ、井澤詩織さんが起伏・平板各1回でした。井澤詩織さんは、起伏が先でしたが、過去投稿では平板だったことからも、やはり普段は平板発音されている方なのだろうと確信しました。では、なぜ最初に起伏発音してしまったのでしょう・・・。
実は、3名の声優さんがナレーションを担当されていました。ご本人の年代で割り振られたのでしょうが、全体的内容や昭和ブロックを担当された井上和彦さん、平成ブロックを担当された石田彰さん、令和ブロックを担当された石川由依さんです(偶然にも「い」で始まるお名前の方々ばかりですね)。井上和彦さんは、起伏7回のみ、ただし「アニメ創世記」といった複合語は日本語のルールからも当然に平板3回のみ。石田彰さんは、起伏6回のみ。石川由依さんは、起伏12回のみ。
大変なショックを受けました。石田彰さんは、最近は起伏ばかりの感じでしたが、1990年代頃は平板発音されていたはずと記憶しています。石川由依さんは、過去投稿にもあるように2016年放送のアニメ「ガーリッシュナンバー」本編中でもしっかり平板されていたように元々平板発音されていた方です。起伏基調の梶裕貴さんと一緒に活動される機会も多いでしょうが、今年3月のアニメジャパンでの「TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season完結編スペシャルステージ」でも変わることなく徹底して平板発音されていました。井上和彦さんは、紛れもないベテランで、過去投稿にもあるように2021年のアニメジャパンの「夏目友人帳」関連ステージイベントで1度だけ起伏気味だったのを耳にしたことがある以外、私の知る限りでは常に徹底して平板発音されてきました。
それなのに・・・いったいどうしてこうなってしまったのでしょうか。どう考えても、御三方が意識して揃えたとしか思えません。通常は無いはずのディレクターなどスタッフからの指示があったのでしょうか。NHKだと変に意識して忖度してしまうことがあるのかもしれませんが、ここは民放です。ああ〜、何てことでしょう・・・変わらないと信じていたのに。ディレクターの指示(指導)だとしたら、アニソン(アニメ文化の1つ)の歴史を振り返る趣旨の番組でもあるので、もしも統一するならば正統的な発音である平板発音に統一すべきです。歴史認識の誤りですので、アニメ文化の歴史についてきちんと勉強してもらいたいです。変な忖度だとしたら、どうか考え直していただきたいものです。「起伏発音が正式」だと勘違いしているとしか思えません。NHK発行のアクセント辞典でも明らかなように、「起伏と平板の使い分け」こそが正式なのです。当番組のようなアニメ文化を直接の主題に据える番組では、「使い分け」としては「平板」の方に該当する環境のはずです。平板発音が正統的な発音だとしっかり自覚し、自信と誇りを持って平板発音を披露し続けていただきたい、と切に思います。最近は、声優さんに限らず、普段は平板発音されている方々がナレーション(やアニメ本編中)のみ起伏発音される事例が後をたたないのですが、指導なのか忖度なのかはともかく、アニメ文化の正しい歴史認識に基づいていただかなくては本当に困ります。
日本の(アニメ文化の)将来に不安を抱かざるを得ず、放送後しばらくは鬱な気分が続いたほどでした(前述の井澤詩織さんの例は、スタジオでも聴こえているはずのナレーションに少し影響されたのかもしれない、と二重の不安を覚えます。)。まだまだこの「SPPALP」の活動は続ける意義があると再認識しましたが、平板発音を「保全」「促進」する有効な手立てがなかなか・・・。とにかく、めげずに頑張ります。
(※諸般の事情により、動画投稿はありません。)